[書評]「DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス」はクラウド推進のバイブル #CCoE
2021 年 11 月 11 日に発刊された「DX を成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoE ベストプラクティス」は CCoE に関する数少ない書籍であり、良書でしたので紹介します。
本書は、社内で DX を推進することを目的に、クラウド活用を推進するためのベストプラクティスと CCoE の先進企業の事例がまとめられています。
どんな人に向いているか
社内でクラウド活動を進めたいとの思いがある人に向いています。特に CCoE をこれから立ち上げようとしている方や立ち上げ初期の方には有益な情報が多いと感じました。
また、CCoE のメンバー以外でも、社内でクラウド推進が必要だと考えている方も想定読書となっており、次の立場毎に本書の読み方・使い方の説明が始めにあります。
- 本社組織・役員
- CCoE メンバー
- クラウドエンジニア
- 一般エンジニア
- ユーザ部門(事業部門)担当者
本書で紹介されている事例は大企業が中心となるため、大企業に務める方には特に共感できる内容だと思います。
逆に向いていない人
技術的な内容はありません。クラウドの統制に利用している具体的なサービス名や設定内容を知りたい方には向きません。
章構成と概要
大きく第 1 部と第 2 部に分かれており、第 2 部の方がページ数が多いです
- 第 1 部:CCoE の解説編
- 第 2 部:CCoE 先進企業の事例紹介
- 補章:CCoE チェックシート
第 1 部:CCoE の解説編
第 1 章:DX 推進の鍵はクラウド活用にあり
DX 推進のために、クラウドを活用すべきである理由が述べられています。また、クラウド活用時に解決しなければいけない課題と解決のために CCoE が注目されている背景を理解できます。
第 2 章:CCoE が必要な理由とその活動内容
次の内容が分かります。
- クラウド推進の課題解決に CCoE が必要な理由
- 社内の障壁とその対処スキーム
- ユーザ部門と IT 部門双方をリードする調整役の必要性
- CCoE の成功例/失敗例から分かる CCoE のあり方
- 成功の共通点は、強烈なリーダシップ、経営層の後ろ盾、内製とアウトソースの適切な使い分けポリシー
- 失敗の共通点は、熱意がない、使い勝手の悪いルール、すべて内製化が是の思考
- 成長期・安定期の活動内容
- 教育、認知度向上、効果測定、技術動向の調査など
特に利害関係の不一致から発生する社内の障壁の例はリアルであり、こちらでも紹介されている下記内容のバージョンアップ版や他の例が紹介されています。
セキュリティ部門が障壁となる例
第 3 章:CCoE の役割と運用・発展のポイント
次の内容が分かります。
- CCoE が担う「クラウドを活用した企業改革」の役割
- CCoE 構築時に対処する「戦略」「組織」「人材」「文化」観点の課題があること
- 課題に対応するための CCoE の組織構成例や役割
- CCoE の効果測定の内容(コスト面、ビジネス面)
- CCoE が軌道に乗った際の検討事項
例えば、組織構成例ではこちら でも公開されている 3 形態が本書でも紹介されています。
第 2 部:CCoE 先進企業の事例紹介
既に CCoE を立ち上げて成果を出している 6 社の事例が紹介されています。
- 大日本印刷
- NTTドコモ
- KDDI
- 富士フィルムビジネスイノベーション
- みずほフィナンシャルグループ
- ビジョナル(Visional)
事例内容は企業毎に異なりますが、次の観点がありました。特に CCoE のリーダー像とクラウド推進のアプローチ方法は共通して記載があり、最後にこの 2 点についてのまとめもあります。
- CCoE の組織構成、適した人材
- 社内での CCoE の立ち位置
- 特にリーダーの人物像
- クラウド推進の課題とアプローチ方法、マインド
- CCoE の立ち上げ経緯、きっかけ
- いかに周り(社内の他組織、経営者など)を巻き込んでいったか
- 失敗したこと、後悔していること
- 今後の展望
補章:CCoE チェックシート
CCoE の立ち上げに役立つ「CCoE チェックシート」とその活用方法が記載されています。
特に良かったところ
ベストプラクティス通りにやることは難しいが不可能ではないと分かる
本書は、第 1 部が CCoE のベストプラクティスで第2部が CCoE の先進企業の事例です。事例では、実際に直面した課題(クラウド推進に前向きではない社員をどうするか等)にどのように対処したのかが書かれているのですが、本書を読めば、大抵の場合は長い年月をかけて地道に進めていることが分かります。
おそらく第 1 部だけだと、ベストプラクティスは分かったとしても「うちの会社とは考え方も違うし、変わるとも思えないから無理だな」と思うだけで終わる方もいたのではないかと思います。第 2 部があることにより、同じような状況を打破することが不可能ではない(ただし、大変で熱意も必要)と分かるため、行動を起こす動機になります。あとは行動あるのみですね。
CCoE のアンチパターンが分かる
本書では、ベストプラクティスだけではなく、アンチパターンの記載もあります。CCoE が失敗に終わるアンチパターンと比較することで方向性の確認に役立ちます。
例えば、下記のようなアンチパターンが紹介されていました。
- DX に熱意のない推進者
- ユーザ目線に欠けたセキュリティ重視のルール
- すべて内製化することが是という思考
周囲(他組織や経営者)の巻き込み方の事例が分かる
CCoE は利害関係の異なる複数の部署との調整や企業のカルチャー改革といった大きな変化を起こす必要があり、経営者や幹部の後押しは必須となります。しかし、必ずしも経営者がクラウド推進に理解があるわけではありません。そのような場合に、いかに他組織を巻き込み、さらには経営者を巻き込み、クラウドを推進していったかの事例は、例え会社ごとに背景は違うとしても、参考になります。
さいごに
私自身 、過去にクラウドを推進する立場として仕事をした経験があり、そのときに「この本に出会っていれば」と思える良書でした。
この本を読めば、クラウド推進のすべてがうまくいくわけではありませんが、対応が難しい課題に直面ながらも他組織や経営者を巻き込んで推進していった先駆者達の苦労を知ることができるため、自分も頑張ろうと思えます。